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1.評価方針

1.1. 評価の背景と目的

 本評価調査では、1992年度以降のわが国によるカンボジアの道路・橋梁分野に対する一連の協力案件(基本的には終了案件)全体を1つの「プログラム」と見なして評価した。

 1974年度以降、わが国のカンボジアに対する二国間援助は、カンボジア国内情勢の悪化により中断された。しかしながら、91年10月に「カンボジア紛争の包括的な政治解決に関する協定(カンボジア和平協定)」がカンボジア・日本を含む19カ国により署名されたことを受けて、わが国は92年6月に「カンボジア復興閣僚会議」を開催し、92年度からカンボジア復興に向けての協力を本格的に再開した。

 92年度以降のわが国の復興支援は、運輸・エネルギー等の経済インフラ整備、農業、保健・教育等の基礎生活分野、地雷撤去・被災者支援等、さまざまな分野で実施されてきている。しかしながら、二国間援助が再開されて10年あまり経った現在まで、個別のプロジェクトに関する評価は行われてきたが、特定の分野を対象とするプログラム・レベルの評価は実施されてこなかった。

 本調査は、92年度以降さまざまな分野で行われたわが国の協力のうち、実施案件の多い運輸分野、中でも特に案件数の多かった道路・橋梁分野について、二国間援助再開後の10年を節目としてプログラム・レベル評価を実施するものである。

 本評価調査の目的は、わが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野における一連の協力を1つのプログラムとして客観的に把握・評価し、

1) 今後のカンボジアに対する道路・橋梁分野、すなわち、道路網整備への協力のあり方について有意義な教訓・提言を得ること、
2) 評価結果を公表することにより説明責任を果たすことである。

 開発援助において具体的な成果が求められる中で、主要ドナー国・国際機関は、援助目的を効果的・効率的に達成するための手段としてプログラム・アプローチを取り入れつつある。このアプローチの根底にあるのは、ある国に対しての援助をする際は、目的・方向をあらかじめ定めておいて、その目的を達成するためにプロジェクト等を有機的に組み合わせた方がより効果的・効率的であるという考え方である。

 本評価では、1992年度以降にカンボジアの道路・橋梁分野に対して行った協力を、個々別々の事業としてではなく、1つの目的を実現するためのまとまったプログラムと見なし、プログラムを構成する事業が、本調査において想定したプログラム目的の実現に向けて適切に計画・実施されたか、いい方を変えれば、個々の事業がバラバラではなく、有機的に組み合わされ、連携しながら計画・実施されたかを客観的に評価することによって、今後のカンボジアの道路網整備への協力をより効果的・効率的にするための教訓を得ることを主眼としている。

1.2. 評価の視点

 本評価では、目的・プロセス・結果という3つの視点から総合的に評価する方法をとった。以下にそれぞれの視点についてどのように評価したかを述べる。

(1) 目的

 わが国が1992年度以降にカンボジアの道路・橋梁分野に対して実施した協力は、当初から設定された「プログラム」として実施されたわけではないが、本調査では一連の協力案件が全体としてどのような共通の目的をもって実施されたかを本調査の時点で想定し、一連の事業がその目的のもとに実施されたものと見なした。

 目的の評価においては、わが国のカンボジアに対する道路・橋梁分野での協力のプログラムの目的が、以下の上位方針・計画における重点分野・重点目標・重点戦略と整合していたか否かを評価した。

1) わが国のカンボジアに対する援助の方針・国別援助計画
2) カンボジアの国家開発計画および運輸(道路・橋梁)セクターの開発計画

 また、上記の整合性の評価に加えて、プログラムの目的が他のドナーの把握するカンボジアのニーズに合っていたかのチェックも行った。わが国の援助は他ドナーの援助目的を実現するために行うものではないが、他ドナーによる援助とわが国の協力が有機的に連携すれば、ドナー・被援助国にとってより効果的なインパクトが得られる可能性もあるからである。

(2) プロセス

 プログラムに含まれた案件の計画・要請・審査・実施の流れをプロセス・フローとして整理した上で、そのフロー図にもとづいて、プログラム策定およびプログラム実施の適切性を評価した。

 本評価は無償プロジェクト・技術協力事業についての個別の評価ではないため、プロセスの適切さを評価するにあたっては、個々の事業がそれぞれ適切に要請・採択・審査・実施されたかではなく、無償プロジェクト群の間で、あるいは、無償プロジェクトと技術協力事業との間でどのように関係しあいながら計画・実施されたのかに注目した。

 具体的にいえば、わが国の協力案件全体の方向性(プログラムの目的)が定められていったプロセスは適切であったか(プログラム策定の適切性)と、その方向性(目的)のもとで各案件がどう関連しあいながら要請・採択・審査・実施されたのか(プログラムにもとづく各案件の要請・採択・審査の適切性およびプログラム実施の適切性)を分析・評価した。わが国のカンボジアの道路・橋梁分野に対する協力は、無償プロジェクトあるいは技術協力事業(個々の研修員受入・専門家派遣および開発調査)といった案件の単位で実施された。したがって、本評価では、それぞれの無償資金プロジェクトの計画・実施のプロセスの中で、それまでに実施された案件の実施結果との関連でどのように計画・実施されてきたのか、技術協力事業は無償資金プロジェクトとどのように関連(連携)して要請・採択・実施されたのかといった点に着目した。

 さらに、プログラムの実施は、同じ分野での他のドナーの関連プロジェクト・プログラムと並行して行われたため、プログラムに含まれるプロジェクト・技術協力事業の計画・要請・採択の際に、カンボジア政府および他ドナーとどのように調整されてきたかのチェックも行った。

(3) 結果

 結果については、プログラムの目的の達成度とその効果、インパクト(波及効果)、および自立発展性について評価した。結果の評価にあたっても、各案件の効果・インパクト(波及効果)・自立発展性の分析ではなく、プログラム全体として、もしくは協力案件の実施が関連しあって生じた結果の分析を中心に行った。

 プログラム目的の達成による直接的な効果の評価指標として、人の移動・物流の変化を交通量データ等で分析した。さらに、目的達成により期待される良いインパクトとして、地方の経済・社会にどう影響(寄与)したかを分析した。加えて、プログラムの実施がカンボジア国の人の移動・物流、および、マクロ経済にどう影響(寄与)したかの分析も試みた。

 ただし、カンボジアには十分な経済産業統計がないこと等から、計量経済モデルによる分析は行えなかった。本評価では、目的達成に関連のありそうな指標の変化に関する既存統計、調査結果を入手し、プログラムの実施がその指標にどう影響を与えたのかを、プログラムの進展と照合しながら時系列的に分析するに留めた。

 インパクト(波及効果)には、プログラムの実施がカンボジア国民にどの程度認知されているか、わが国に対する好感度の向上に寄与したかについての評価指標も加えた。また、インタビュー等でどのようなインパクト(負のインパクトも含めて)があったかを聞き、その数値的な情報分析に努めた。さらに負のインパクトを軽減するための取り組みも調査した。

 自立発展性は、プログラムの目的達成の結果生じた効果が、今後も発現しつづけるのか、あるいは、発現し続ける見込みはあるのかに注目した。具体的には、プログラムで整備された道路・橋梁は、適切に運営・維持管理されているのか、されていく見込みがあるのかを評価した。自立発展性の評価においても、各事業の自立発展性を議論するのではなく、プログラムに含まれた無償プロジェクト群により整備された道路・橋梁の維持管理能力の向上にプログラム全体としてどう寄与したか、その結果、今後維持管理が継続される見込みがあるのかといった観点から分析した。さらに、プログラム全体の実施を通じて、カウンターパートとなった実施機関は、今後自ら類似のプロジェクトを計画・実施していく能力を身につけたのかを評価した。

 以上の視点にもとづいて評価の枠組みを表-1のように作成した。ただし、結果の指標設定についてはプログラム目的設定、目的の上位計画・カンボジアのニーズとの整合性の確認の後に行った(表-28参照)。

1.3. 評価調査の手順

 本調査は以下の工程で実施された。

  • 国内準備:調査方針の検討、情報の収集・分析、現地調査準備
  • 現地調査:データの収集、現地視察、関係機関等での聞き取り調査
  • 国内解析:現地調査結果の分析、関係機関等での聞き取り調査
  • 国内整理:教訓・提言のとりまとめ、報告書の作成

 現地調査は、2003年2月19日~3月1日にかけて以下のメンバーで実施された。

 評価調査メンバー: 
  原  尚生 (八千代エンジニヤリング株式会社)
  中川 義也 (株式会社パデコ)

 オブサーバー:
  尾崎 真美子 (外務省経済協力局政策課 課長補佐)
  中垣 朋博  (外務省経済協力局評価室 事務官)





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